また東の空から陽が顔を出した。
私は耳元で喧しく鳴る、目覚まし代わりにしている携帯のアラーム音を止めて、仕方なくも身体を起こす。
第一声は欠伸から漏れる声。
溜め込んだ息を、ほんのわずかに残っていたやる気と共に吐き出す。
テレビの前の座椅子にもたれかかり、電源をつつく。
やはりと言うか何と言うか。映った画面は昨日からやっていた、この季節、毎年恒例の番組だった。
手元のぬるいレモンティの入ったボトルを取り、コップにも継がず一口分を一気にあおる。
――やはりぬるい。
窓の向こうから刺すような陽射しが飛び込んでくる。今日も容赦がない。憂鬱だ。
声がした。
よく聞く声。それを聞いてはじめて、自分が今どこにいるのかを理解した。
「起きてるー?」
私は座椅子にもたれていない頭を振り向かせずに後ろに傾け、天地をひっくり返して声の主を覗き込む。
短いスカートがひらひらと揺れ、その奥を垣間見ていたら足蹴にされた。
見られたくないのならもっと長くすればいいのにと、この痛みが来る度に思う。
「雪菜は元気ね…」
「アンタが元気ないだけよ」
けだるい身体を持ち上げ、手短に身支度を整える。
まだぼやけている頭を必死に回転させ、今日の予定を思い出す。
…別に何かを予定していたわけでもないが。
強いて言うなら、そろそろ彼ら――異世界外交機関『ミュートロギア』に所属している彼と、その手伝い数人――が戻ってくるはずだ。
数日前に出向いてそれっきりだった。
大掛かりな調査で人手が足りなかったため、やむを得ず求人した、と言っていたような。
手伝いには妹も向かっていたので帰ってくるのが待ち遠しい。
「そういや、雪菜ちゃんはどうしてついていかなかったの?」
「別に…私は大人数じゃなくて、真司と二人っきりがよかっただけよ」
「あらあら」
「大体、なんであいつが真司と……ぶつぶつ」
何やら呟きながらそっぽを向いてしまった。
その様子を見て苦笑していると、ドアをノックする音が聞こえてきた。
確かドアは開きっぱなしだったような気がしたのだが。
「やっと起きたかい」
手に箒を持った赤髪メイド服の女性がずけずけと部屋に入ってきた。
頭を掻きながら愛想笑いをしたら箒で叩かれた。痛い。
「まったく…なんで妹さんがいないとすぐ汚くなっちゃうんですか」
「いやあ…掃除は私の管轄じゃないし。セラ様がいらっしゃいますし」
「ダーメストな姉だこと…はいはい、いいから早くどいてくださいな」
箒の先を突き付けながら、埃を払うように左右に振る。そんなに邪魔か。
「やれやれ…よし、雪菜。お迎えにでも行きますか?」
「…なんでアンタと」
「愛しの彼がお帰りになるのに、冷たいのね」
「アンタと一緒なのが嫌なだけよ。勘違いしないで」
そう吐き捨てるなり、一足先に部屋から出ていってしまった。
とんだ嫌われ者になったものだ。
仕方ない。
これ以上セラに小煩く言われる前にさっさと部屋から出ることにした。