OXOシリーズ Ifストーリー
『みんなで温泉旅行に行こう♪』
【出発編】
「なぜこんなことに……」
快晴のような真っ青な髪と格好をした青年がうなだれるような顔をしながらそう呟いた。
後ろから突き刺さるような視線を受けながら、内心涙目な彼"リューギ"は、今回の一件に関わったことに後悔するのであった。
事の発端はにっくんの一言だった……
「ミテア〜?そのテでおんせんいってダイジョウブ?」
わきあいあいとした雰囲気の中、温泉旅行に行く計画を立てているときに、
不意に投げられた言葉に、皆の視線が青いダルマのような生き物に集まった。
その言葉の意図を理解したのか、左目が赤で右目が青という非常に珍しいオッドアイを持つ少女"ハルカ"が、困ったように考え込んでしまった。
狐耳をした女性"レナ"と、オレンジ色の髪をした少女"みかん"は、その言葉の意図が理解できないのか不思議そうな顔をしていた。
「あの〜ミテアさんの手がどうかしたんですか?」
微妙な空気になってしまったこの雰囲気を裂くように、みかんが話を切り出した。
自分のことのはずなのに、朱髪に長髪でファンタジックな格好をした女性"ミテア"は、自分は関係なさそうな顔をしている。
一方、事情を知っているハルカはその質問にどう答えれば良いのかわからないという様子だ。
ハルカの困った様子を察したミテアは、腕をすっぽりと覆うほど長い袖を肩までたくし上げ、その腕を皆に見せた。
「私……、両手とも義手なの……」
相手に必要最低限の要点だけを伝える口調でいうミテアの腕は、
見た目は細身な甲冑の風貌をし、関節部分は人形の丸型関節のような形状をしていた。
それが二の腕の真ん中にまで達し、キリキリと機械音を立てていた。
みかんとレナは、それを見て理解したのか、申し訳なさそうに頭を下げしまった。
突然義手を見せられれば誰でも反応に困ってしまうのは当然である。
「ミテアもそんなヘビィなのを軽々見せるわねぇ……」
「私にとってはライトだから……」
そんな重くなった空気の二人を他所に、ミテアとハルカは軽々と話している。
どうやらミテアにとって、義手のことは心の枷ではないようだ。
そしてこの会話から二人はとても親しい関係だとわかる。
「でも確かに、その腕だと温泉はいろいろと面倒ね」
どうもハルカが危惧していることは義手そのものではなく、その事情を知らない他者のことである。
事情を知らない者がそれを見たらどうなるかは、みかんとレナの反応でおおよそ察しはつく。
当人は気にしなくとも周りが騒げば、せっかくの旅行気分も台無しである。
温泉を貸し切るという手もあるのだが、今回はあくまで温泉旅行である。
温泉だけでなく、外の景観やご当地グルメにもありつきたいものだ。
そう考えるとミテアが外での行動が制限されない温泉地を探さなけらばならないのだが、
まず、そんなところは存在しないだろう。
そのことで悩むハルカであったが、不意にミテアが提案してきた。
「・・・・・・だったら異世界の温泉街に行く?」
あまりに突拍子のない提案に一同は唖然となってしまった。
その発言から想像できるようにミテアは異世界人である。
ミテアは異世界間の外交に関わる仕事をしているため、異世界間で有名な温泉街をいくつか知っているのだ。
最初は戸惑っていた一同であったが、ミテアの行動制限がないことと、なにより異世界旅行ができるということもあり満場一致で可決した。
そして全ての問題が解決した―――
――といいたいところだったが、実はそのとき新しい問題が発生していたのである―――
このまま旅行の日程を決めるだけと思った矢先、異世界への移動手段がないという問題が浮上した。
異世界への移動手段はさまざまあるが、ミテアが使用できる移動法は本人限定の代物であった。
よって、ハルカたちを異世界へ連れて行く手段をミテアは持っていなかったのだ。
しかしそのことについての対策はミテアに心当たりがあったのである。
ミテアの知人、リューギである。
彼はミテアの同じ仕事をしている同僚で、彼に協力してもらえれば彼女達が所属する組織に、複数でも移動可能な異世界移動法の使用申請を出すことができるというのだ。
しかし、その提案にハルカはあまり乗り気ではないようだ。
なぜならその提案内容がリューギも旅行に同行させるということだからだ。
ハルカとしてはこれ以上の参加人数増加は当初の目的、ミテアと温泉に行き、彼女とチョメチョメするという、くっだらない計画に邪魔が入る可能性が出るからだ。
だが、今回使用する移動法は申請者が同行する決まりになっている。今回の申請の名義はミテアとリューギの二人になるため、リューギも同行する必要があるのだ。
「少し譲って一人二人人数が増えることはしょうがないけど……、男性の参加はねぇ〜」
どうやらハルカ的には男性の参加が一番おもしろくないようだ。
「女の人でその申請を出して貰える人は他にいない?るぅちゃんとかリヴとかさぁ……」
確かにミテアには同僚の女性が二人、ルートとリヴという人物がいる。
この二人の協力でも移動法の申請を出すこともできるが、この二人の場合、他の人に言いふらし、参加人数を一人二人増やす所ではなくなる可能性があるのだ。
それにこの二人に比べ、リューギならまだ口裏を合わせてもらえばちゃんと守ってくれるので、安全だと踏んだ結果の提案だったのだ。
そのことを聞いたハルカは観念したのかしぶしぶとその提案を承諾した。
その後、ミテアはリューギに連絡をし、無事協力を得ることができた。
そのときの話を聞いたリューギは、ハルカの気持ちを察したのか、二人の邪魔はしないことを約束した。
こうして順風満帆といった感じに計画は進み、出発当日になったのだった。
―――問題が進行していることに気付かないまま―――
出発当日、ハルカは早朝、姉であるカオルにバレないようマンションを抜け出した。
二泊三日を予定した異世界温泉旅行……それを楽しみにしていた彼女は、今にもスキップしそうな気持ちを抑え、待ち合わせ場所である鎮守高校の裏山へ向かった。
現在、裏山は一般人立ち入り禁止になっている。
異世界の移動など一般人に目撃されるのは非常に宜しくない。そのためこの裏山は今回の待ち合わせ場所に最も適していたのだ。
そんな裏山を奥へと進んでいくと、開けた空間に出る。
その空間の真ん中に小さな小屋がある。
少し前までハルカの姉、カオルが修行に使っていた小屋だ。
その小屋のそばにミテアが立っていた。
どうやらハルカが来たことに気づいてないようだ。
楽しみで早く着きすぎたクチだと思ったハルカは、彼女を軽く脅かそうとそ〜っと近づき、
そしてミテアの背後に回ると
「おはよう〜ミテア♪」
といいながらミテアの肩に手を乗せ、横から登場したのだった。
「……ハルカ」「ハルカ……」「ハルカさん」「ハルカ」
返ってくると思われた声は、余分に三つも返ってきたのだ。
そこには小屋の影に隠れて気付かなかったが、リューギとみかん、レナがいっしょに立っていた。
だけなら当初の予定通りだったのだが……
「遅かったわね、ハルカ♪」
ご機嫌に話すハルカの姉"カオル"の姿と、
「よぅ、俺たちも同行するぜ異世界旅行♪」
と笑いながら喋る黒髪の男性"シンジ"の姿、
「楽しみだな〜温泉♪」
雪女のくせにお風呂が好きなアホ毛の"ユキナ"、
「『シンジが行くならいっしょに行く』……とお嬢様が仰るのでお供させていただきます♪」
としおらしく喋るメイド姿の女性"アオイ"、
「ちょっ!?誰もそんなこといってないでしょ!!」
その発言に激しく反論する、見た目ツンデレな銀髪の少女"マキ"、
「突然のお誘い、ありがとうございます」
礼儀正しくお辞儀をするポニーテールの幼女"シズル"、
「ゆっくりさせてもらうわね♪ハルカちゃん」
と気さくに喋るみかんの姉"レイア"、
そしてハルカの前まできて小声で
「……その……胸が大きくなる温泉て……本当ですか?」
とハルカの耳元で喋る胸ぺo○○な少女"エリカ"が
……小屋の影に勢ぞろいしていた。ほぼオールスターである。
「……はっ!ちょっと!!これってどうゆうこと?!!」
そんな面々を見て一時停止していたハルカであったが、我に返り叫びだした。
その怒涛の叫びにミテアが答えた。
実は自分たちが旅行の計画を立ててる間に青いダルマのような生き物"にっくん"が知り合いのみんなに言いふらしていたそうだ。
それであれよあれよという間に全員参加するカタチなってしまったのだという。
その事実を知ったハルカはその場にうなだれてしまった。
ここにいる全員が知っていることなのだが、実はにっくんはリューギの体から発生した擬似生命体なのである。言わばリューギの分身である。
分身とはいえ、感情は完全にリューギと切り離されいる。だが、大抵にっくんのやらかしたことの批難はリューギが被ることになっていた。
当然そのことを知っているハルカは、にっくんの飼い主?であるリューギに対して批難の目を向けるのであった。
その目に耐えられなくなったリューギはミテアに助けを求めたが……
「リューギ……責任取って……」
どうやらミテアも見た目は変わらないが怒っていたようだ。
こうしてリューギは今回の旅費全てを負担することになるのだった。
「それじゃあ……みんな出発だ!」
こうしていつの間にか仕切ってるシンジの掛け声とともに、皆勢ぞろいのカタチで温泉旅行は始まったのであった。
一人は背中に批難の視線を背負い、心で涙していたが……
【道中編に続く】